R・シュトラウス 「オペラ管弦楽曲集」 - 20 - (2004年8月)
(ばらの騎士、インテルメッツォ、カプリッチョ、サロメ)
プレヴィン指揮 ウィーン・フィル
(ドイチェ・グラモフォン 437 790-2)(輸入盤)
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【 R・シュトラウス入門 】
以前もちらりと書いたが、私は大学時代半ばまで
リヒャルト・シュトラウス(以下リヒャルト)の音楽を無視していた。
これはリヒャルトの持つ、享楽的でエンタテイメント溢れる
コケ脅しにさへ取れる大仰なサウンドに反感を抱いていた。
自らを「英雄」に模してみたり、日本で云う「富士山」を音楽化したかと
思えば、ニーチェの哲学も音楽に出来るんだ。
なんて思い上がった作曲作品なんだ、と白眼視していたのです。
それほど深く聴き込みもせずに、ね。
一方、バッハをこよなく愛する同期がいた。
こいつは真面目な奴で、聴く音楽もマタイ受難曲てなわけで、
あんまり何を聴いているかなんて話はしなかった。
そんな奴が、ある時、なんで私に言ったのか覚えていないのだが、
「このCD、いい曲ばっかだよ」と貸してくれた。
ジャケットを見ると、ロングスカートから覗いた女の生足、
足元には銀製のバラ、というあまりセンスは良くない。
タイトルは「リヒャルトのオペラ管弦楽曲集」だった。
バッハ野郎がどういう風の吹き回しだ?
しかも私が嫌ってるリヒャルトと来たもんだ。
しかし、これが私のアマノジャク精神に火を点けた。
「俺がリヒャルトを理解できねぇってぇのかよ!」
まぁ、こんな歪んだ出会いばかりの私の音楽人生ですが、人の出会いは
不思議なもので、今ではこの一枚の出会いを、私は彼に感謝して降ります。
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【 CD感想 】
ここからようやく、リヒャルト音楽入門に入ります。
リヒャルトと云えば、「英雄の生涯」「アルペン・シンフォニー」「ドン・ファン」
「死と変容」...と交響詩の名曲の数々が、大河のように想い起こされます。
しかし、リヒャルトの真の真骨頂はオペラにあり、と言いたい。
どうやら、そうらしい、と分かっている人は多いんでしょうし、クライバーの
「バラの騎士」日本公演なんかでもかなりのリヒャルト・オペラ・ファンは増えたと思う。
しかし、国内におけるリヒャルト演奏会、特にオペラ楽曲の演奏は少ない。
どうにか「サロメの7つのヴェールの踊り」と組曲「ばらの騎士」が
演奏されるくらいで、まだまだ頻度が少ない。
あんなに良い曲なのに!
このCDの選曲は実に優れている。
大人気の組曲「ばらの騎士」を冒頭に持ってきて甘美に酔わせ、
「サロメの7つのヴェールの踊り」で末尾を爆音で飾る。
しかしその間にこそ、プレヴィンのしたたかな選曲と洗脳化計画が織り込まれているのだ。
中間の2曲、「インテルメッツォ」に24分、「カプリッチョ」に13分も費やしている。
併せて37分と、気が付いてみれば、「ばらの騎士」狙いのお客さんに
37分も未知なる秘曲を開陳しているわけだ。
そのどちらも、どうしてもっともっと有名にならないのか不思議なほど、
美しくて繊細な調べに満ちている。
「インテルメッツォ」冒頭はキッチュで駆け巡るような疾走感があり、
美しい展開を伴った躍動が終わるとピアノと室内楽的な弦四部のアンサンブル。
ウィーン風にグリッサンドした旋律や軽やかなワルツなどは「ばらの騎士」を
彷彿とさせ、「ばらの騎士」の系列をお探しの方には是非お薦め。
「カプリッチョ」の冒頭などは、アルペンの夕景もしくは
「4つの最後の歌」を彷彿とさせる切なくも芳(かぐわ)しい広々とした世界。
こうした音こそ、生でしょっちゅう聴きたいモノ。
どっか、やってくれー。
「ばらの騎士」の演奏は実に秀逸。
プレヴィンの実演で満足したためしは無いのだけれど、
VPOを操った時のリヒャルト演奏は大変なマッチングである。
プレヴィンはテラークでもアルペンや英雄を録音しているが、こちらも心底私好み。
ブロムシュテット盤と双璧を築いています。
長時間のオペラそのものから入るには抵抗がある方には、是非ともお薦めな一枚です。