MMF

コンサート感想


2011年3月20日(日)16:00  東京オペラシティ・コンサートホール
東京アカデミー合唱団 / 秋山和慶 指揮
 ラター : レクィエム
 A.L.ウェッバー : レクィエム

(隊長作)

2011年3月11日。
この日を前後して、日本は大きく変わってしまった。

今思い出すと微笑ましいニュースとも言える携帯電話による
大学受験カンニング事件がワイドショウを賑わせ、
他にもっと議論すべき事があるだろうにと平和ボケ日本は
いつもの通り春を迎えつつあった。

私はこの日、東京の隅っこでいつものように明日からの
土曜日コンサートを楽しみに働いていたのだが、午後2時45分過ぎ、
大いに揺れた、長く揺れた。

とっさに思ったのは、これが本震前の前兆なのではないか?
もしくは震源地はどこなのか?どれほどの規模なのか?
大きく長く揺れたが、建物に影響は無く、落下物も無かった。

すぐさまテレビでニュースを得ようと動いたが、
次第に東日本の大被害が映像とともに伝わった。

関東大震災は産まれるはるか昔、阪神大震災のときは東京に居た。
そして今回、東日本大震災、東北の人々の悲劇に比べようもない話ではあるが、
東京のコンサート事情は大きく影響を受けた。

もともと3月は目玉演奏会が目白押しで、そのほとんどが自粛で中止となった。

その判断がどうであれ、哀しみと不安に日々を過ごす人々にとって、
自粛中止でも暗闇となった。大切な人を亡くしたり、大怪我をした人にとって、
華やかな演奏会などなんの慰めにもならないだろうし、ひっそりと悲しみを
共有する時期が日本には必要だった。


3月19日、大阪交響楽団(児玉宏指揮)
ロータ:交響曲第4番「愛のカンツォーネに由来する交響曲」(日本初演)。

3月21日、東京アマデウス管弦楽団(リンク指揮)
マーラー:交響曲第2番「復活」。

3月21日、早稲田大学交響楽団(児玉宏指揮)
R.シュトラウス:アルプス交響曲&交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。

3月27日、都民交響楽団(末廣誠指揮)
マーラー:交響曲第10番(クック版第3稿)。


ミューザ川崎は内部がボロボロになり多くのアマオケ演奏会が
半年以上不可能となった。他にも無数の演奏会が中止・延期となり、
私自身も出歩くことや演奏会に行く気力を失った。

しかし、震災後一週間余りしか経ってない3月20日、
ラター「レクィエム」演奏会は敢行された。

「レクィエム」という特殊な楽曲ゆえの実現だったが、
まさに死者のための鎮魂にふさわしい演奏会であり楽曲であった。

また、私にとってラター「レクィエム」ライヴは生まれて初めての体験であり、
被災者に贈る猛烈なパワーが演奏をさらに昇華させ、涙が潤んで仕方なかった。

四大レクィエムと言われるのは、モーツァルト、フォーレ、ブラームス、
ヴェルディだが、このラター・レクィエムは負けず劣らぬ高い次元だ。
こう言うコトを書くから反感を買うのだろうが、ラターはモーツァルトや
フォーレとは肩を並べても、ブラームスやヴェルディには勝っていると思う。

音楽はメロディアスすぎることが20世紀作品らしくないと言える美しさで、
20世紀クラシック音楽の中でもかくまで美しい作品があるのだと金字塔と誇れる。
冒頭、地の底から浮かび上がるような箇所だけが20世紀を感じさせるが、
すぐに中天を舞うような優しい音楽に変わる。

7曲からなり、管弦楽版と室内楽版がある。
切り詰めた合唱と精鋭室内楽版の方が透明感があり楽曲の真の美しさを
表現できると思うが、そこは20世紀音楽、おそらく難しいのだろう、
管弦楽版でも全く問題ない。

今回は管弦楽版だったが、合唱の迫力が素晴らしく、音が舞台から
ホール中空に迫り、音の塊が目に見えて動いているように感じた。

合唱は若い男女の声が最も似合うように思うが、東京アカデミー合唱団は
失礼ながらシニアが多い。しかし不思議なものだ、東日本大震災への鎮魂を
思う心から音質の衰えを全く感じさせない。

逆に感情をセーブさせて歌声を安定させる理性が働き、
極力こころを沈めさせつつ熱い想いを飛ばしてくる。
初めて出会えたラター演奏会がこんなに美しく悲しい響きとは、
もうどう書いてよいか解からないくらいだった。


後半は、アンドルー・ロイド=ウェッバー。
このレクィエムはCDも持っており予習もしたのだが、
ラターとは真逆な20世紀音楽。

アンドルーは余りにも有名なミュージカル&映画作曲家で、
「キャッツ」「オペラ座の怪人」「スターライト・エクスプレス」
「ジーザス・クライスト・スーパースター」「サウンド・オブ・ミュージック」
など誰もが知っている名曲ばかりだ。

しかしこのレクィエムはそんな音楽を想像して挑むと酷い目にあい、
最愛の父を嘆き悲しむ作曲家の懊悩で塗り込まれている。

演奏ラストには舞台が真っ赤にライティングされ、
とても昇天できそうにない気持ちになる。
曲順を逆にして欲しかった・・・。

(隊長作)

過去のCD感想。

inserted by FC2 system