うさぎ(隊長作)

サンマルク  - 3 -  (2004年4月)   訪問者数
  
  先日、近所のレストラン「サンマルク」へ行ってきました。
  誕生日祝いのDMが届いたからです。
  バースディ・メニューなるものがあり、加えて1杯のワインやお土産の小皿など
  中々嬉しい特典が付いてました。
  店内にはグランドピアノが据えてあり、音大生らしい手足の長い若者が弾いてました。
  
  我々の食事もメインディッシュが近づいた頃、そのピアニストがおもむろに近づいてきて、
  「こちらのリストからお好みの1曲をお選び下さい」
  と照れくさそうに、手書きのメモをテーブルに置きました。
  なんと、我々がクラ・オタ(クラシックおたく)と知っていての所業か?
  
  どれどれ?とメモを見ると、ショパンやリストの小曲に加えて、坂本龍一
  や冬のソナタ(韓国のドラマね)等が並んでいた。うむむむ。
  余りにも唐突な提示なので私はうろたえてしまい、隊長にリクエストを任せた。
  隊長は即座にショパンの「ノクターン第2番」を指令。
  
  それまでのピアニストの技量では、多くを期待できない事が分かっていた。
  私は「プロコの戦争ソナタはできませんか?」と訊ねてみたかったのだが、
  単なる嫌がらせになる所だったろう。
  
  彼のノクターンはさておき、私がこのクラシックにのめり込んだ経緯は以前述べました通り。
  しかし人間の行動は様々な事象が絡み合って、成就して行くもの。
  私がクラシックに潜在的関心を抱いた一因に、このノクターンも絡んでるんです
  (なんだか大袈裟ですみません)。
  
  思春期真っ只中な頃の私は、男の子にも関わらず、当時新井素子の著作を楽しんでいた。
  現在30代の女性読者なら、ご存知の方もいらっしゃるのでは?
  彼女の「グリーン・レクイエム」というSF少女小説に、私はいたく感動した。
  その作品末尾に、「ショパンのノクターン第2番を聴いて」と付記されていた。
  なんてオシャレで、かわいらしい添え書き。
  今考えると、リストが「ダンテの神曲を読んで」のパロディみたいなアレンジだ。
  いずれにせよ、その一文で私はノクターンとは、こんな優れた小説を生み出しえるのか、
  と感心してしまった。
  
  ノクターンに関心を持ったものの、それをどうすれば入手できるかまでは分からなかった。
  家族は音楽無関心だし、私は中2の時、音楽で「2」を取った程だ。
  当時の音楽女教師が嬉々として「東京でホロヴィッツを聴いてきた」と自慢していた事を思い出す。
  しかし、その高齢ホロヴィッツの東京ライブが、相当滅茶苦茶だった事も、今の私は聞き及んでいる。
  今なら、あの音楽教師と堂々話しあえるだろうに。
  通信簿「2」の不出来な私が、こんなヤサグレたクラ・オタになっているとは、先生もよもや思うまい...。
  
  そんな事を考えていたら、目の前のノクターンは終わった。
  私は彼に拍手を送った。
  音楽は人それぞれの想い出とともに、今日も流れる。
  懐かしい1曲、ありがとね。

   前へ  HOMEへ  次へ









inserted by FC2 system