(隊長作)

シベリウス   交響曲第3番    - 31 -  (2006年6月)    訪問者数

シベリウス 交響曲第3番


  ロジェストヴェンスキー指揮  USSRテレビ&ラジオ大交響楽団
   ( CDVE 44237 ) 輸入盤  1973年録音

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  私にとって、5月といえばシベリウスです。
  4月ではまだ寒く、6月ではもう暑い。
  て言っても、もう6月だけどね。
  今年の5月は肌寒い雨ばかり。
  そんな絶妙なやさしい自然の季節が5月であって、自然の息吹をめい一杯
  吸い込める季節がシベリウスの音楽と重なり合う。
  
  だから私はついついこの季節はシベリウスをよく聴いてしまうのだが、昔から持っていたくせに、
  その真価に気づかなかった一枚を、今回も紹介したい。
  
  私も含めて多くのシベリウス・ファンは交響曲なら第5〜7番の後期や、
  第1・2番の熱気みなぎる前期がお好きじゃないでしょうか。
  私も番号なら第6番、番号が無ければクレルヴォ交響曲と、今までなら
  即答していたのだが、今回のCDに気づいてその即答も危なっかしい。
  
  シベリウス遣いは、やっぱり北欧の指揮者に限る。
  シベリウスの音楽はあくまで大自然への賛歌であり、汚れた人間たちはすべて
  灰色に塗りつぶしてその先の白い空にこそ深遠を見出すような演奏が
  美しい。
  そんな固定観念もあって、今までこのロジェストヴェンスキー(以下ロジェヴェン)の
  演奏は全くもって奇演であり、見当はずれなもの、としか見ていなかった。   (隊長作)

どうしてだろう?
  そんな思い込みが壊れたのは。
  CDを聴く時には、多くは今から誰の指揮。どこの演奏者が演じるのかを
  確認してから聴き出す。
  だから、「うんうん、なるほど、やっぱりこの人らしい演奏だな...」
  
  といった、答えが解った状態で、さも納得したかのように追認してゆく。
  
  
  ところがこの演奏は、ちょっと誰が演奏しているかを知らずに聴き込んでしまった。
  そして愕然としたのだ。
  まったく、シベリウスではない!   (隊長作)

ドロドロしている。
  渦巻いていて、ギラギラとして、何かを強烈に訴えてくる。
  それは自然のかなたから叫んでいるのではなく、まるで大自然の脅威に
  曝されている下の、人間達の怨嗟のような訴えだ。
  
  フィンランドはかつてロシアに相当な迷惑を受け、彼らはお互いを十分に
  理解しあっているとは思い難い。
  また、ロシア・ソ連音楽と、北欧音楽は、地理的に近似したものがあるように思えるのだが、
  それは日本と中国のようにまったく異質なものとなっている。
  
  日本文化を中国人芸術家が真価を顕わにしてくれるだろうか。
  北欧文化をロシア芸術家に素っ裸にされるとは、当人たちも思いもしないだろう。
  ただし、彼らは、彼らの関係は、そうだからこそ互いが気づきにくい側面を
  見出すことを忘れている。   (隊長作)

一歩外からモノを見てると、意外とその本質がチラチラと見えていたりするものだ。
あくまでそれはチラチラであって、そこからインスピレーションされるものは
  拡大解釈したものとなり、結果としては随分いびつなものになってしまうかもしれないが、
  ある意味、本質の一端を拡大したものであることに違いはない。
  
  このロジェヴェンの演奏はそんな歪(いびつ)である部分が虫眼鏡で大きく
  拡大解釈されてしまったかのような演奏かもしれないが、
  こんなシベリウスもありえるのか、と驚いてしまう演奏だ。
  それがシベリウスの本質なのか、真価なのか、捻じ曲げて表現してしまっているのかは
  微妙だが、こういう演奏も世の中にはあるのか、という全く不思議な興奮が起きてしまう。
  
  このCDは4枚組からなる交響曲全集で、前期の1・2番も恐ろしいような演奏だし、
  後期の青踏なる世界もまったくロジェヴェン・ワールドに塗り替えられている。
  私的には彼の表現方法と、もともとドロドロした中期(第3・4番)が
  偶然ぴったり嵌ったんだと思っている。   (隊長作)

副旋律や対位法の本来なら主旋律の影でささやかに淡い陰影に
留まっているような流れがいくらでも立ち現れてくる。
  やわらかくはかなげに奏されてきた木管たちも、妖精の悲鳴のように歌われる。
  根本思想が全く違うからだろうが、本来のシベリウスとは全く違う。
  だからダメだ、とは私は思いたく無い。
  こんな演奏があることを自作の録音マニアだったシベリウスは嫌うかも
  しれないが、彼の楽譜には、こんな可能性も秘められていたことに、
  彼自身驚くだろう。


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