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コンサート感想


2010年12月31日(日)14:00  東京文化会館(小ホール)
ベートーヴェン 弦楽四重奏曲 中後期9曲演奏会
 ・古典四重奏団
  弦楽四重奏曲第7・8・9番(ラズモフスキー・セット)
 ・ルートヴィヒ弦楽四重奏団
  弦楽四重奏曲第12・13番、大フーガop.135
 ・クァルテット・エクセルシオ
  弦楽四重奏曲第14・15・16番

(隊長作)



ようやっと、2010年最期の記事です。
このメルマガも随分遅れてまして、実に6ヶ月ズレ。
ときどき一気に、はしょっちゃおうかと誘惑駆られる事もあるんですが、
どうにかこうにか書き繋いでおります。少しでも追いつくように、
テンポを気にして行きたいと思ってはおります。

さて、2010年最期のコンサートは!
2004年12月31日、今は亡き岩城宏之指揮で
ベートーヴェン交響曲全曲演奏会を聴いた。

あのマラソン・コンサートは実に面白かったんだが、
その後チケットが取りづらくなったのと、年末は
いろいろ用事もありまして、久しく上野に行ってなかった。

西方に居る時は、びわこホールでジルベスター行ってたしね。
あれはあれで、楽しかった♪
除夜の鐘鳴る滋賀県をドライヴするのも面白かったし。

今年の年末年始は久々の東方、ということで、やっぱり東京歳末らしく
上野に行こうと相成りました。

ただし交響曲全曲は二番煎じなので、
前から気になっていた弦楽四重奏演奏会へ!



たびたび書いてますように、私は室内楽も好きです。
室内楽に興味を持ったのは少々邪道で、バーンスタインのCDでした。
彼のベトベン弦楽四重奏曲(第14&16番)弦楽合奏版でした。

当時はバーンスタイン人気は絶頂期でして、彼の新譜が出れば
皆が飛びついたものです。晩年に近づくほど彼の演奏はスローになり、
緊張感も求心力も薄れて行くように感じましたが、
このSQ弦楽合奏版は衝撃的演奏でした。

もう、これほどの音楽を何故聴いてこなかったのか。
小難しいと言われるだけで、後期四重奏曲を聴こうともしなかった日々を
後悔したものです。轟々唸るバーンスタイン盤を聴き続けると、
気になってくるのは他の番号です。

切望した他のナンバーはバーンスタイン弦楽合奏版はとうとう出ず、
仕方なく本来の弦楽四重奏版を買いました。

いろいろ考えましたが、安全性を重視して初めて買ったのは
アルバン・ベルク盤。

いろいろなカルテット演奏を聴きましたが、攻撃的演奏が好きな私は、
いま、エマーソン盤が気に入ってます。
本来のベトベン後期の方向性とは違うのでしょうが、
死に向かうベトベン狂気と重なるような気もします。

ベトベンSQ(ストリング・クァルテット)は前・中・後期と
分類されてまして、第1〜6番を前期、第7〜11番を中期、
第12〜16番を後期とされています。

実にうまく分けたもので、前中後期でかなり作風も色合いも異なります。
後期ロマン派以降が好きな人でも、ベトベン後期SQは楽しむべき。
いや、中途半端な後期ロマン派なら、ガチガチな後期SQの方が
イっちゃってます。

当然マニアの間では諸手を挙げて崇拝されているベトベンSQですが、
街中で流れるほど親しみを持たれていないのも、孤高な後期SQならでは。
マーラーがSQを書いていたとしても、ベートーヴェン以上のものを
書けたかどうか。そういった作品群と言えば、ご想像頂けるでしょうか。

ちなみに話はズレますが、いま最も愛してやまないSQが、
マリピエロです。

朝目覚めてから夜休むまで、始終耳奥で流れているのがマリピエロ。
彼のSQは全8曲、特に第3・4・5・6番が図抜けて素晴らしい。
演奏は数種しかなく選択の余地もありませんが、
オルフェウス・カルテット盤が奇跡的名演なので、これにて決定盤と言えます。

しかも激安。
なぜ話題とならないのか不思議でなりません。



東京文化会館はそもそも余り行ってないのですが、今回の小ホールは初めて。
サントリーの小ホールも入った事が無いので、いかに小ホール、
室内楽やピアノに関心が小さいか分かります。

ホールは最近改装されたようで、内装もデザインも格好良かった。
平土間&階段形式のワンフロア・タイプで、総座席数649。
小ホールと言うより、中ホールと言っても良い。
ただし舞台が小さいので、合奏団程度までしか載れないように見える。

中期からは第7〜9番、所謂ラズモフスキー・セット。
第9番が面白い曲で、エマーソン盤の超ハイスピードで聴くと
ドライヴが楽しくなる。当日の演奏は有名な古典四重奏団。

CDも出ているのでどんな演奏かと楽しみだったが、
期待通り安定した演奏だった。

オーケストラは何十人もの合奏、それに比べてSQは四人。
音が小さくなると思いきや、これが不思議と凄い音量なのだね。
ピアノ・ソロ対ピアノ協奏曲でもそうだけど、ピアノ単体だと
小さくなるはずなのに、馬鹿でかく聴こえてしまう。

だからSQは迫力不足と思うのは、心配無用。
下手なオーケストラより余程圧倒的な迫力が味わえる。



第12番からはルートヴィヒ弦楽四重奏団。
基礎技量は古典SQの方が上だが、勢いや流れはルートヴィヒが勝るか。
楽曲的に後期を演奏した方が、そう思わせるものがあるのかも知れず、
同じ番号で聴き比べしないと正しい比較にはならないようだ。

第13番終楽章がグダグダに崩れてしまったのが残念だった。
一転、大フーガはカオス構造なのに大した演奏。

大フーガとは、本来第13番終楽章の為に書かれたのだが、第13番自体が
大きくなりすぎた上に、止めを刺さんばかりに終楽章が大フーガじゃ
重過ぎると思われたのか、現在納まっている終楽章に書き換えられた
という曰く付き名曲。

それゆえ第13番を大フーガに換えて演奏することもあり、
本来ベトベンが夢想した壮大なSQが堪能できる。

実際は本日のように、換装後第13番をやったあと、大フーガが
おまけのように演奏されるパターンもあり、聴き比べてみると
大フーガがいかに偉大か再確認できるだけ。

書き換えられた終楽章だって、一つの作品と聴けばそこそこなのに、
比較されるのが大フーガじゃ可哀相ってもんだ。

第14〜16番が本日一番の聴き所でして、演奏も最も良かった。
四人全員の技量が伯仲していて、こうであってこそ四重奏は面白い。

どうしても第1ヴァイオリンが中心となるのが古典派や前期ロマン派だが、
ベートーヴェンのSQは一気に飛んで後期ロマン派だ。

四人の賢者が対等に談論風発、誰もが己が持つ最大の舌鋒で鬩ぎ合う。
またそれが楽しめる楽曲が最後期の三曲にはある。
少々褒めすぎた気もする、第15番などは少し気に食わない演奏だった。



しかし聴き慣れた交響曲演奏会より余程刺激的で、こういった演奏会が
ある事自体、東京だと羨ましく思った。

大阪はいつも東京に負けないつもりで動いているが、
コンサート企画では完全敗北している。

(隊長作)

過去のコンサート感想。

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