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コンサート感想


2011年1月28日(金)19:00  東京オペラシティ・コンサートホール
東京シティ・フィルハーモニー管弦楽団 / 矢崎彦太郎 指揮
 グリーグ : 交響曲 ハ短調
 プロコフィエフ : バレエ組曲「道化師」

(隊長作)



2011年上半期、最高の演奏会。
1月にして素晴らしい演奏会に出会え、2011年は好調な
滑り出しとなった。金曜夜という忙しい週末だったが、
無理に無理を重ねて、奇跡的に新宿初台に駆けつけた。

プロコフィエフ「道化師」という意欲的プログラムなので、
そこそこの演奏は予想していたが、ああまで
素晴らしい演奏会になろうとは、正直思っていなかった。

指揮者は矢崎彦太郎。
かつて名フィル2007年12月定演
(ブルレスケ、サティのパラード、ペトルーシュカ)を
聴いた時はプログラム珍しさで聴きに行ったが、
感想は「普通」だった。矢崎氏の演奏はそれきりなので、
楽曲に期待こそすれ、演奏期待まではしてなかった。

しかしあれですな、変わったプログラムを
精力的に継続している人は、やる時はやってしまうねぇ。

プロコ道化師にグリーグの交響曲。
マイナー同士のカプリングで、集客は厳しかろうと思ったが、
約5割の入りという事で、興行的には失敗だった。



こういうカプリングをしちゃうから、「プロコは客が呼べない」
「グリーグも人気翳ってきた」なんて思われる。

私だったらプロコの「ロメジュリ」&「道化師」とするとか、
グリーグをやらざるをえないとしても名曲ピアノ協奏曲や
「ペール・ギュント」「ホルベアの時代から」あたりと
カプリングして妥協すべきだったろう。

それかグリーグ「交響曲」をどうしてもやるのなら、
プロコは「ロメジュリ」か「交響曲第5番」あたり、もしくは
同じ北欧つながりでシベリウス2番とかニールセン4番とか。

いずれにせよ、今回のようなマイナー・カプリングでは
集客閑散だった。大失敗が続けば、いかに名演奏を重ねても、
演奏チャンスが減ってしまう。細く、長く、普及布教活動は
やって欲しいもの。

そうまでして採り上げた、グリーグの交響曲ハ短調(作品番号なし)。
全面的な受け入れ態勢で拝聴したのだが、面白くなかった・・・。
演奏自体は冒頭から気合十分だったが、如何せん楽曲そのものが・・・。

スヴェンセン(同じノルウェーの作曲家)の交響曲を聴いたグリーグは、
おそらくショックだったのだろう、この交響曲を封印してしまった
というエピソードがあるそうな。

さもあらん、こうやって21世紀の東京で演奏され、
さぞかしグリーグも恥ずかしさを噛み締めているだろう。

いや、待てよ?
グリーグの「交響曲」と、スヴェンセンの「交響曲」。
この2曲で聴き比べ演奏会をしたら、グリーグが「やめてくれぇ」と
幽霊になってあらわれたりして。

真夏の暑い夜は、作曲家が封印した楽曲ばかり掘り起こして、
作曲家の霊を呼び覚ますのも一興かも(ふふふ)。

(隊長作)

さてさて、今回注目の「道化師」。
CDではジュスキント盤とユロフスキー盤を持っていて、
それなりに楽しめる演奏なのだが、今回の生演奏の方が
それを上回る演奏だった。プロコフィエフの楽曲はどれも
演奏困難で、生演奏が突出して上手いと感じることは少ない。

これは「思い切りの良さ」を出すことが難しいせいで、
難技巧において「えいや!」と強奏するのは度胸のいること。
そこを見事徹底してくれたのは、嬉しい驚きだった。

また、プロコの管弦楽は綿密に書き込まれた構造になっていて、
それでいて爆音が空間を支配する。

CDだとどうしてもベタ塗りの轟音しか記録されない箇所が多いが、
ライヴだとこれが違う。

どんなに大音響が空間を埋め尽くしても、その片隅で
異なる動きをしている奇音が出てくると聴き取れる。

CDで聴き込んできたに関わらず、今回初めて知った動きが
無数にあった。また、指揮者も敢えてそういった裏動機を
積極的に浮かび上がる演奏を施していたようで、
ファンとしてはたまらない演奏となった。



それに、いつも私が重視している「スピード」!
実にキレがある快速演奏だったのだ。
もちろん落とすところや粘るところはじっくり攻め上げ、
俄然反転する時の変わり様が素晴らしい。

これは楽団との綿密なテンポ打ち合わせの下拵えが
あってこその成果でもあり、このコンビはかなり期待できる。
惜しむらくは、平日演奏会がほとんどな点。

そして、音色。
クラシック・コンサートなのだが、プロコフィエフやショスタコは
クラシックとは別の音色で演奏して欲しいもの。

感情丸出しの人間性を捲り上げた音、多少の亀裂や犠音は厭わず
我武者羅な音色が欲しい。この点でも、東京シティ・フィルは
意図してか結果そうなったのか分らぬが、実に猛々しい音色で
がなり立ててくれた。

クラシック奏者として研鑽してきた人々にとって辛かっただろうが、
これはプロ根性の高い見事な姿勢と感じた。
こういった、作曲家の特徴を踏まえた演奏を目指す楽団は、
いずれきっと評価されてゆくと思う。



最後に。
「道化師」といえばレオンカヴァッロの道化師を思い出し、
サーカス小屋の裏手でメソメソ悲哀にくれるピエロを想像してしまうが、
プロコの道化師は全然違う。

道化師同士が騙したり殺しあったりというおどろおどろしい争いのシナリオ。
よって音楽もしかるべく、怪しい下地がふんだんにあり、感情の起伏や爆発が
音楽によって表現され、流れも見事。

しかもバレエ音楽なのでリズム感も忘れられず、退屈する時間は全くない。
「シンデレラ」や「ロメジュリ」が有名曲になったのに、この「道化師」は
まだまだ無名。

音楽的にも面白いピースばかりなので、
是非みなさんも聴いてみて欲しい。


(隊長作)

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